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温故知新の誠実な一冊!倉下忠憲『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』


お気づきでしょうか、なぜか同じ本が3冊ありますね。理由は、amazonで予約していたのに配送が待ちきれず、閉店ギリギリの本屋に雨の中自転車で買いに行き、その上メルマガ購読者限定の抽選に当たって著者からプレゼント(サイン入り)していただいたからです。しかもメッセージカード付きで!ありがとうございます。

Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術 (デジタル仕事術)

Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術 (デジタル仕事術)


これだけ期待していた本だったので、勢い余って書評も遅くなってしまいました(長くなりすぎたから・・・)。書ききれない部分は今後の記事に反映することにします。

アイデアの「教科書」を目指すだけあって

どんな一冊?

この本の装丁はちょっと特徴的で、重厚な作りをみせつつ(表紙を一枚めくってもすごいです)、ビジネス書を多く出版している技術評論社さんであるからか、帯に当たる部分にこの本の売り文句が全て詰まっています。

情報は捨てるな!アイデアの地層を作れ!
メモとノートとEvernoteの合わせ技でアイデアの種を見つけ、育て、収穫する
ハイブリッド式 アイデアの教科書!

もうこの3行で本書の魅力は言い切っているんじゃ無いかと思わなくもないですし、既に先行する有名ブログ記事がある(のを著者がまとめている)
R-style » Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術
のですが、本ブログの読者向けに特化して、紹介させていただきます。

初心者向けをうたっている

本書の第一の特徴は、なんといっても「アイデアについてのイメージを「畑」にたとえて」話を進めることでしょう。発想術が何か特別なものであると考えている人たちに対して、身近に感じてもらおうとしていることです。第1章で朗々と述べられたアイデア畑を育てていくイメージを、各章が具体化していく過程は圧巻です。

古き良き知的生産と新しいデジタルメソッドの橋渡し

しかし、私が考える本書の最大の特徴は他にあります。それこそ、タイトルにも掲げた「温故知新」です。

「専門家は脚註・参考文献から読む」に耐える作り

あなたは論文を読むときどこから読みますか?
論文なんて「論述式試験」しか知らないよ、という方は別として、参考文献と脚註から、という方が多いのでは無いかと考えます(この記述自体に脚註がなくてすみません・・・)。それは、どれだけ先行文献を調査して、そのうちどの文献を選択し、そしてどう自分の議論を根拠付けているかがわかるからです。
もちろん、一般書籍にそれを求めるのは酷かもしれません。とにかく著者の考えたことを述べてもらえばいいのなら、要らないかもしれません。
しかし、先人の残したものに敬意を払い、それを超える何かを提供しようとする誠実な著者なら、さすがに学術論文のようにページ数まで掲げることはしなくても、どの文章に依拠しているのかを示しながら書き進めることでしょう。
本書の最大の特徴はまさにこの点にあります。巻末1ページを参考文献にあてるだけでなく、文中にも引用が多数行われているのです。

古今東西の知的生産に関する良質のブック・アプリガイド

もし、引用や参考文献が、単なる「〜がこう言っていた」に留まるのであれば、それはあまり説得的ではありません。しかし、著者の使い方は、古今東西の発想法、アイデアについての名著のうち、コアとなっている部分を、ここぞと言うところで引用しているのです。私も職業柄「論文の書き方」や「発想法」についての本を多数読んでいますが、本書に掲げられているものはいずれも名著です。そして、それについての的確な批評がついているのです。このことは、この本が発想法やアイデアについて初めて学ぶ人にとっても、ある程度学んだ人にとっても、良質のブックガイドでもあることを示しています。そして、デジタル機器に疎い人にとっては、そのような選書ができる人が選んだアプリガイドでもあるわけで、信頼感が違います。

方法が移り変わっても・・・

そして、先人から学んだ根本的な考え方から文章を組み立てて、具体的なやり方に進んでいるので、時代が移り変わったとしても、本質的部分は色あせることはないでしょう。本書の正式名称は「Evernoteとアナログノートによる〜」だけれども、たとえ(非常に不幸なことですが)Evernoteサービスが終了してしまっても、あるいはアナログノートよりも感覚にしっくりくる道具が開発されたとしても、本書の根本的なところは価値を失わないでしょう。

発想から収斂へ

本書のもうひとつの特徴は、アイデアの蓄積や整理、発酵の方策だけでなく、どうしたら花開かせることが出来るかという、通常は「文章術」とでも題して別冊になってしまう部分も記述していることです。

「メモをため込んだ後」「並び替えてひらめいた後」が大変

論文を書く段階になりますと、目の前には「産みの苦しみ」が待っています。ため込んだり広げたりしたアイデアも、文章や絵など、何かの形にしなければ他者に伝えることが出来ません。著者はこの過程を「整想」と名付けて、第4章をあてています。

デジタルの良さを取り入れた具体的な解決策を提示

伝わりやすくするために必要な作業は何か。著者によれば、アイデアを大きく広げる作業と現実的かどうか等を判断する作業は分けるべき(168〜170p)であり、前者には発想を阻害しないためのアナログツールが向いているが、後者には並び替えや複製が容易なデジタルツールが向いている(174p)としています。それを踏まえた上で、アウトラインプロセッサやデジタルマインドマップなど、現実的な方策を提案しています。
私自身もこの発想を取り入れて、文章を書くときにはまずは手書きメモやノートでトピックを書き、ある程度乗ってくるとFreemindというデジタルマインドマップソフトで構成を練って、それをWord等で整形するようにしています。この記事自体も、そのようにして作っています。

あえてメタに適用してみよう

本書自体が発想術のたまもの

本書を3冊も手に入れてしまったので、せっかくなので二回通読しました。2度目は2度目の楽しみ方があります。それは、本書の内容を本書の構成自体にあてはめてみることです。この本自体が著者の発想術で書かれているのですから、本書自体にも実例があるのです!世の中の発想術の本はこのように「2度目のRPG」気分で読むと盛り上がるのでお勧めです。
本書においては、特に4章の部分は裏舞台を見せながら書かれています。架空の本の企画作りがワークとして取り上げられているのです。この部分が非常に参考になります。

「なぜこの表現をとるんだろう?」 1度目の疑問は氷解した

そう考えて読み返してみると、一章の構造がすごいんです。「アイデアを畑に例える」比喩から、実に見事に「アイデアの6原則」を導き出します。そして、各章をその原則に対応させる形で構成しているのです。 初読時は、ここの筆の運びが若干強引にも感じられました。しかし、各章を読んでからもう一度第1章を読むと、アイデアにまつわる誤解を解くために、実に見事に比喩を展開していることがわかります。比喩を使うことの意義を述べながら比喩の実践例を示しているといえるでしょう。

おすすめしたい人々=この長いブログを最後まで読んでくれる皆さん

論文本、知的生産本にありがちな罠

職業柄、趣味と実益を兼ねて発想法や文章術、論文を書くための本をたくさん読むとあることに気づきます。それは、どの著者も自分の業界慣習を背景にしているゆえに、共感度合いが違うのです。作家には作家の、コピーライターにはコピーライターの、理系の実験系には実験系の、経済学には経済学の、文学研究には文学研究のメソッドがあります。そのため、ちょっとずつ自分の状況にあわないのです。
(なお、「それでは一番おすすめの本は?」と聞かれれば、

創造的論文の書き方

創造的論文の書き方

をすすめます。法学研究者ではなく、経営学がご専門の先生の本ですけれども、一番しっくりきました。)

著者属性の壁を乗り越えた本

その点で本書の特徴は、温故知新、古今東西様々な文献を参考にしているからこそ、いい意味で色が付いていないことにあります。それでいて、体裁は「ビジネス書」。ビジネスパーソンにも読みやすいよう、各種の工夫をこらしつつも、決して水準を落としていない。そんな神業をやってのけています。

私のブログが好きな人は絶対買うべき

このブログ、やたら文章が長いことを開き直っていることにお気づきでしょうか。実は、著者の運営するブログR-Styleのおかげで吹っ切れている(笑)ところがあります。(アイキャッチ画像を入れないとか、ほかにも影響を受けている面があるけれど、このまま続けるとブログ論になるのでまた別の機会に。) 逆に言えば、このブログを最後まで読むような文章好きは間違いなくこの本合いますので、ぜひ手に取ってみてください。

研究者が意外と知らない技術、理念もいっぱい

既に研究者となっている方にも、ぜひ我流と比べてみていただきたいです。いわゆる古典もふまえてある上、ビジネス書として発刊されたものの中での発想術も押さえているので、きっと同じことでも違うものの見方が見つけられるはずです。特に、「Evernote使ってみたいけどどう論文作成に生かせるのかわからない」という方は、本書を皮切りに、著者の別の本を手に取ることをおすすめします。

おわりに:続編期待!

こんなツイートをしたら拾われた


こんなツイートをしていたら、応答がありました。
R-style » 「ハイブリッド発想術」メディアマーカー献本PR第二弾!

なるほど、なかなか面白そうですね。ワークに特化したワークブックは発想力アップには役立つかもしれません。文字がびっりしりでも、図解がたっぷりでもなく、むしろ読者が記入するための空白が沢山ある本。そういうのがあってもいいですね。

なんでこんな事を思ったのか。それは、本書が良い意味でも悪い意味でも「教科書」に徹している、ということです。つまり、「あれ、資料集とかドリルとかはないのかなあ」と思ったわけです。

よりマニアックな「資料集」方面とよりワークを重視した「ドリル」方面?

ちょっと発想法に詳しい人から見ると、「いやいや倉下さん、まだまだ色々やっているでしょう!もっと手の内明かしてくださいよ」と思うわけです。特に、「整想」のところは、基本のきに留まっているようで、「著者はもっと色々試しているに違いない」と思わせるモノがあります。
逆に、「理論はわかったし、アプリもわかった。でも、もっと手を使って身につけたい!」という需要もあることでしょう。これに対しては、ブログ特設ページのほうでアプリの紹介の追加をされていますし、上での応答にもあるように、ワークブックのようなモノがあっても面白いでしょう。

3冊目は里子に出しました

面白いモノを作っていると言えば、本ブログでも度々登場するNUBoardを作っている欧文印刷さんだ!

CANSAY ノート型ホワイトボード NUboard (新書判サイズ)

CANSAY ノート型ホワイトボード NUboard (新書判サイズ)


と言うことで、サイン本は保存用、もう一冊は自炊用にしても余ってしまう三冊目を、欧文印刷のクミタさんにお渡ししました。本書を使って、また面白いモノ作ってください!

本当にお勧め本なので、皆さんもぜひ、カフェパウゼのお供に。
それでは、よいカフェパウゼを。

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