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カフェパウゼをあなたと

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<悪魔の代弁人>と前置きすることの効果

対話 書評 研究法

刺激的なトークセッションを振り返って

6月2日に、「NHK出版新書『憲法の創造力』『したたかな韓国』刊行記念 木村草太氏×浅羽祐樹氏トークセッション」に参加してきました。
NHK出版 | お知らせ -トピックス-
木村草太×浅羽祐樹【憲法学×政治学】クロストークまとめ - Togetter
非常に刺激的な話が多かったセッションでした。
「ジレンマ」のサイトにて、これから4回連載で内容が公開されていくそうです。
慰安婦問題をめぐる日韓のズレとは――憲法と政治のジレンマ【第1回(全4回)】:木村草太×浅羽祐樹 | 語った | ジレンマ+

今日は、このクロストークのもとになっている、浅羽祐樹先生の『したたかな韓国』の冒頭で語られる<悪魔の代弁人>という言葉について、考えていきます。

したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る (NHK出版新書 402)

したたかな韓国―朴槿恵(パク・クネ)時代の戦略を探る (NHK出版新書 402)

<悪魔の代弁人>とは?

浅羽先生は本書において、

<悪魔の代弁人>に徹しようと心掛けた(p20)

といいます。
そして、

「韓国に学べ」といいたいわけではない。「したたかな韓国をなめるな」である。(p20)

と続けます。
そもそも、<悪魔の代弁人>とは何でしょうか。
実は、この言葉に着目したインタビュー記事が既に公開されていますので、合わせてみていきましょう。
<悪魔の代弁人>を立てるかどうか、クライアントこそ問われている | SYNODOS -シノドス-
このインタビュー冒頭で、浅羽先生はこう紹介します。

<悪魔の代弁人(devil’s advocate)>とは、もともとカトリック教会において、ある人物を聖人と認めるに値するか否かを審問するさいに、あえて疑問や反論、批判だけを提示する役回りのことです。勝負事や交渉にのぞむ前に、みずからの論理や証拠の弱みをあらかじめ徹底して洗いだすことで主張を鍛え上げる。そんなアプローチです。

そして、エピソードとして、海賊対策を担当した外交官の話を続けています(ぜひリンク先をご覧ください)。
どんな聖人であっても弱みはある。その弱みを洗い出す敵・・・その敵は、考えられる限り強力で賢い相手でなければならない。
書籍のほうでも、

真っ当な勝負事なら、当然、当事者すべてがこうした徹底的な準備をし尽くした後で臨んでいるはずだ。そのためには、耳に聞こえのいい天使のささやきではなく、聞きたくないことをあえて伝えてくれる悪魔の声を聞こうとする姿勢が大切である(18p)

と続けています。

<悪魔の代弁人>を前置きに使おう

本書の構成における意味

この話が、冷静な韓国の内情分析を行う本書の「はじめに」におかれている意味を考えてみましょう。
日韓関係に関する議論は、感情的になりがちです。「韓国に都合のいいコメントを言うあいつは韓国の味方なのか」とか、「あんな訳のわからない主張をする国を相手にする必要はあるのか」などと。
さらに、こんな光景を居酒屋談義においても、Twitter等でもよく見かけます。
どうしても政治的に難しい議論をするとき、一方の当事者の事情を詳細に分析し、そこから出てきた結論が他方にとって都合の悪いものであると、発言者に対して感情的なコメントを投げる者が登場する・・・

もう、やめませんか。発言と発言主とを結びつけて、感情論に走るのは。

浅羽先生がこの<悪魔の代弁人>を最初に紹介した意味は、二つあります。

まず、韓国自身に<悪魔の代弁人>の役割を果たしている方がいること。現役の裁判官が書いた『独島・イン・ザ・ハーグ』というベストセラー小説は、日本側の事情をもきちんと踏まえた上で書かれており、國際訴訟の備えになっていることが、本書第3章にて紹介されています。

そしてもう一つ大事な視点があります。冒頭に述べたとおり、浅羽先生はこの本において、<悪魔の代弁人>を演じているということです。これほどまでに、冷静な日韓関係分析に触れたのは初めてでした。
<悪魔の代弁人>の話を前置きにおくことで、本書はひょっとすると「耳障り」であるかもしれない話題に、読者をぐいぐい引き込んでいくことに成功しています。

日常の会話にも使ってみよう

このような<悪魔の代弁人>ということばは、もっと使いどころがありそうです。
たとえば、かなり真面目な議論をしようとしているのに、どうも一方の意見しか出てこない。そうしたとき、私はこう切り出します。
「ええと、ここからしばらくの時間、私は<悪魔の代弁人>として、心にも無いことを言います。でも、ちゃんと聞いて、反論してくださいね」と。
そして、身振りで、悪魔の触覚の真似をする(笑)。

こうすることで、ただの会話に、「ディベートのモード」を導入することができるからです。この一言で発言への評価と発言主への評価を切り分けることができるのなら、非常に短い時間で、問題点の洗い出しが出来るように思うのです。

リーガルマインドの核にあるはず

よく、「法学部にいくと何が身につけられるのですか」と問われて、「リーガルマインドを身につけられます」ということがあります。しかし、そのリーガルマインドとは何か。私は、法学を学ぶ者が自然と心掛けているマナーであると考えます。そして、その中核に、「発言と発言主を切り分けること」と、「都合の悪い議論を立てるときにも手を抜かない」ということがあると考えています。
そうすると、法学部を卒業するまでに<悪魔の代弁人>をきちんと自分のなかに形作ることができれば、大事なことをきちんと押さえたことになる、といっても言い過ぎでは無いでしょう。

対話の中に<悪魔の代弁人>を混ぜ込んで、深みのある対話にしてみませんか。
気になる人は、クロストークで対談した木村草太先生の本も併せて読んでみてください。こちらでは、相手の立場を「想像」して、よりよい議論を「創造」することがキーになっています。

憲法の創造力 (NHK出版新書 405)

憲法の創造力 (NHK出版新書 405)

なれ合いだけではない、刺激的な対話とともに、愉しいカフェパウゼを。