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福岡高裁の上告却下と地方自治法96条1項12号についての覚え書き

一つの条文をめぐって真っ向対決

福岡県の上告 高裁却下、飯塚の廃棄撤去訴訟で

 福岡県飯塚市の産業廃棄物処分場の周辺住民が県に廃棄物の撤去を求めた訴訟で、福岡高裁は28日、県の上告手続きが不適法だとして上告を却下する決定をした。県は不服として近く抗告する。民事訴訟法は、上告手続きに明らかな不備がある場合、最高裁の判断を待たずに高裁が却下しなければならないと定めているが、実際に高裁が却下するのは異例。

 県などによると、福岡高裁は、地方自治法96条1項12号は上告には議会の議決が必要と定めているのに、今回は議決がないと指摘、「上告は不適法」とした。

 一方、県は今回のケースについて「議会の議決は必要ない」と反論。総務省によると、96条1項12号は、行政に処分などを求める「義務付け訴訟」は例外と規定している。

 福岡高裁は2月7日、必要な措置を業者に命じるよう県に義務付ける判決を言い渡した。県が21日に上告したのを受け、県議会は22日、県に上告取り下げを求める決議をしている。
(2011年3月1日 読売新聞)

YOMIURIONLINE  http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/national/20110301-OYS1T00192.htm より

旧筑穂町産廃訴訟 福岡県の上告受理せず 高裁「議会議決なく不適法」

 福岡県旧筑穂町(現飯塚市)の産業廃棄物最終処分場に搬入された違法な産廃をめぐる訴訟で、福岡高裁(古賀寛裁判長)は28日、同高裁で敗訴した県の上告について、受理申し立てを却下する決定をした。高裁は、今回のような行政訴訟で自治体が上訴する際は地方自治法に基づき議会の議決が必要と判断。しかし、県議会は22日に上告取り下げを求める異例の決議を可決していることから、高裁は「県の上告は不適法」とした。
 
 県環境部監視指導課は「今回の上告は地方自治法の規定に該当せず、県議会の議決は必要ない。上級審の判断を求める考えに変わりはない」と反論。期限の3月7日までに最高裁に抗告するなどの措置をとる。
 
 この訴訟の原告は処分場周辺の住民13人。一審福岡地裁で敗訴したが、2月7日の二審判決では今回の不受理決定をした古賀裁判長が一部原告の主張を認め、廃棄物撤去を含む改善措置を業者が講じるよう県に命じた。県は同21日に最高裁に上告していた。
 
 地方自治法96条は、地方自治体が当事者となる「訴えの提起」などは「議会が議決しなければならない」と定めている。高裁は決定で、県議会の議決がないことだけでなく、上告取り下げを求める決議を重視。「議会の議決は公知の事実であり、上告及び上告受理申し立てはいずれも不適法で、その不備を補正することができない」と却下理由を説明している。

西日本新聞 http://www.nishinippon.co.jp/wordbox/word/6059/8009 2011年3月1日掲載ワードBOXより

福岡県飯塚市で産業廃棄物処分場についての措置命令義務付け判決が下されていたので興味深く推移を見守っていたところ、ちょっと変わった展開に。
上記引用の福岡高裁の上告却下の記事、一読してモヤッとしませんか?
福岡高裁は12号は議決がないとだめなのに議決がないから不適法だ、といい、
県および総務省は義務付け訴訟は例外であると規定しているではないか!と反論しています。
なんだか落ち着かないので、私なりに検討してみました。*1

地方自治法96条1項12号をみてみれば・・・

「そんな、ひとつの条文について真っ二つに割れることがあるもんか」と思い、条文を見てみると・・・

地方自治法 96条1項
 普通地方公共団体の議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。
(1号〜11号)略
12号  普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、訴えの提起(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決(行政事件訴訟法第三条第二項 に規定する処分又は同条第三項 に規定する裁決をいう。以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において同じ。)に係る同法第十一条第一項 (同法第三十八条第一項 (同法第四十三条第二項 において準用する場合を含む。)又は同法第四十三条第一項 において準用する場合を含む。)の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)に係るものを除く。)、和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。

・・・え〜、非常に読みにくいですね(苦笑)。
県や総務省のいう例外規定というのがどこかわかりにくいので、改行や強調を加えてみます。

普通地方公共団体がその当事者である審査請求その他の不服申立て、
訴えの提起
普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決
  (行政事件訴訟法第三条第二項 に規定する処分又は同条第三項 に規定する裁決をいう。
   以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において同じ。)
   に係る同法第十一条第一項
     (同法第三十八条第一項 (同法第四十三条第二項 において準用する場合を含む。)
      又は同法第四十三条第一項 において準用する場合を含む。)
 の規定による普通地方公共団体を被告とする訴訟(以下この号、第百五条の二、第百九十二条及び第百九十九条の三第三項において「普通地方公共団体を被告とする訴訟」という。)
 に係るものを除く。)、
和解(普通地方公共団体の行政庁の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟に係るものを除く。)、あつせん、調停及び仲裁に関すること。

(改行、加工はKfpauseによる。)
少しは見えやすくなったでしょうか。

わかりやすくまとめると、かっこ書きや和解などに関するところを飛ばして読めば、「普通地方公共団体(今回の場合は福岡県)が訴えの提起をする場合には、議会の議決を得なければならない」と書いてある条文です。
1項柱書の文面としては「議会は議決をしなければならない」とありますが、ここで列挙されている事項に関しては議決がないまま行うと無効、と一般に解されています。

問題はかっこ書きの中身です。
太字で強調したところをまとめると、
行政事件訴訟法3条2項でいう処分について、11条1項で県などが被告になっている訴訟には、この規定は適用しない」ということです。
かっこ書きのなかのかっこ書きでの強調部分、38条1項というのは、「取消訴訟以外の抗告訴訟にも11条を準用する」という意味になっていますので、義務付け訴訟はそれにあたります。

県の言い分が正しいように思える

以上をまとめると、かっこ書きの趣旨は、「この規定は取消訴訟や義務付け訴訟には適用しないよ」ということなんですね。
成田頼明他(編)『注釈地方自治法<全訂>』(第一法規・加除式)1537p[斎藤誠執筆部分]にも、下記のように説明されています。

本条の訴えの提起には、上訴も含まれると解されるところ、同改正(引用者注:平成16年の行政事件訴訟法改正)により取消訴訟等について地方公共団体自体が当事者となる(引用者注:改正前は処分庁。つまり知事など)ことから、上訴には議会の議決が必要となる解釈ないし法制度設計も考えられなくはない。しかし、取消訴訟等においては、処分庁が責任を持って訴訟の遂行にあたるという仕組みが改正前後でかわらないとすれば、議決は必要無いこととなる。行訴法改正に対応した平成一六年の本法改正では、この考え方により、本条一項一二号にかっこ書きが追加され、従来通り、取消訴訟にかかる上訴に議会の議決が必要ないものとされ...(中略)た。

そうすると、「義務付け訴訟には適用がない」という県の言い分のほうが正しいようです。

上告反対の議決があった場合はどうなるのか?

ただ、今回問題になっているのは、「議決がない」場合ではなく、「反対の議決がある場合」です。
「議決がない場合に無効となる」というのはわかっていても、
議決が必要ではない場合に、反対の議決を押し切った場合はどうなるのか?
この点、上述の斎藤誠教授の説明からすれば、執行機関側が責任を持って遂行する、という意味が問題になります。
地方公共団体においては立法機関である議会の議員だけでなく、執行機関の長である知事も直接住民から選挙で選ばれています。
互いに独立し監視しあうのだと考えれば、
議決事項になってない事項について議会が議決したからといって、執行機関からみれば余計な口出し、
すこし固い言葉を使えば、権限分担の観点からみて越権行為ではないかと思えます。
もちろん、反対議決をすることで上告を思いとどまらせるという政治的な意味はありますが、法的に意味があるかと言われれば議論の余地があるでしょう。

原裁判所による上告却下にはあたらないんでは?

まして、今回は原裁判所、つまり福岡高裁による上告却下(民事訴訟法316条)ですから、「上告が不適法でその不備を補正することができないとき。 (同条1項1号)」であることが明らか(1項)でなければ、上告却下の要件に当たらないはずです。
この規定は、不服を最高裁に申し立てているのに、その途中で書類を受け取った原裁判所が「こんなの最高裁に送るまでもないよ!」といって自分で却下しちゃうという条文ですから、こういう厳しい要件になっています。
それで・・・
・・・明らか、か?

福岡高裁がかっこ書きを読み落としたというのであるならともかく*2
反対の議決がある場合についての法的効果については議論すべき部分が残っていると思いますので、今回は県の主張が通るのではないかとKfpauseは思います。
もっとも、以上の検討は新聞報道からわかる範囲のことで決定文自体は見ていませんので、これ以上のことはわかりません。
県は即時抗告を検討しているようですから、最高裁の判断に注目したいと思います。

久しぶりにブログを書いたらいろいろとヘタになっていますね(苦笑)。
最後までおよみいただきありがとうございました。

追記

2011年7月27日決定(裁判所webサイトhttp://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110802103648.pdf)で、最高裁によって本件決定は破棄されました(参照、http://d.hatena.ne.jp/paco_q/20110731/1312060682)

*1:私は裁判官でもなんでもないただの大学院生です。以下は引用部を除き個人の見解であることをおことわりしておきます。

*2:そうだとしたらまったくもって論外で,福岡高裁ヤッちまったなあ、という感じですが・・・