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自分の名前を使わせてほしい!パスポート「別名併記」(両姓併記)利用者の切実な願い #ぱうぜトーク

複数の立場と視点から本気のお願いと怒りを込めて

さきほどPodcast「ぱうぜトーク」第6回から第8回を配信しました。
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テーマは「ドイツにおける名前トラブル」。この2か月ずっとこの問題に悩まされていて、とりあえず言葉として吐き出してみようと思って収録したらやはり整理しきれていないので、ブログ記事にしたいと思います。

根源的な権利のはずなのに

一言で言えば 自分の名前を使い続けさせてほしい
というのが正直な感想です。それは、単に個人としての感想ではなく、ひとりの研究者として、デジタル化していく社会における根源問題としての「名前」問題であると思いました。以下、私が直面した問題の紹介とその原因を分解していく作業として、この記事を書きたいと思います。

青野社長のツイートから受け取る危機感

もっとも、端的にいえばサイボウズの青野社長がいうこのツイートにすべてがこもっています。

「法的に根拠がなく、国際的そして法的に重要な場面では使えない」

そうなんです、それが最も問題。上記ツイートでも引用されているように、パスポートに限らず、免許証における旧姓併記がはじまるとのことです。ある親友は「これで一歩前進かな」といって紹介してくれたんですが、私にはどうしてもそうは思えないのです。

ドイツで直面したトラブル

まずは問題抽出のために、ドイツで直面したトラブルを列挙してみます。どこまでが「選択的夫婦別姓が認められていないことによる弊害」なのか、それとも「単なる日本とドイツの習慣の違いのせい」なのか、あるいは「研究職特殊事情」なのかの判断は、あとで考えることにしましょう。「ぱうぜトーク」第6回から第8回で話したことを列挙しつつ、補足を加えます。

前提

当事者:横田明美。岡島さんと結婚したので現在の戸籍名は「岡島明美」。2013年3月に東京大学にて「博士(法学)」の学位取得(課程博士)。現在、千葉大学准教授。在外研究を始めるために事前に2018年8月の旅券(パスポート)更新時に「別名併記」申請を済ませ、「別名併記」の例外の適用を受け「Akemi OKAJIMA(YOKOTA)」と表示された旅券を受領した。申請時には学部長のサインが入った証明書と博士号の証明書(横田明美名義)を持参した。

外務省公式サイトによる説明

なお、外務省公式サイトでは、

渡航先国の出入国管理当局等は,必ずしも日本旅券の別名併記制度に精通していないことから,旅券に括弧書きで記載された別名の意味が理解されず,説明を求められる場合があります。 このような場合,まずは旅券の所持人が御自身で旅券に併記された氏及び(又は)名について御説明いただく必要があります。その際には以下にあります英語版資料を御活用ください。」

として、英語版資料が掲載された(令和元年6月26日付)。これは河野外務大臣(当時)がツイッターでの利用者の不満を聞いて対応したものであり、当事者もそれを見ていたために英語版資料も持参して渡独した。

www.mofa.go.jp

問題1:郵便が届かない

事案の概要

10月1日に現在の住居で住みはじめ、郵便受けと呼び鈴と玄関に苗字を表示する必要がある。大学からの郵便は横田で、公的機関からは岡島で届く可能性があるため、大家に両姓が併記された旅券を見せたうえで、両姓を併記するよう依頼した(*注意:この説明はものすごく大変。英語がいちおう話せるけど苦手な人も多い)。結果、「Dr.OKAJIMA-YOKOTA」という表記をしてもらうことになった。しかし、2週間もの間郵便や宅配が一切届かなかった。

被害

2日に行った住民登録の結果受領すべき書類(社会保障番号が記載されており、それがないと銀行口座の開設ができない)が通常1週間で届くところ、受領までに3週間かかった。それ以外にも、携帯電話会社からの住所確認が届かず5日間回線が寸断された。携帯電話会社に上記事情を説明するためには本人による電話での問い合わせが必要であり、自動応答音声を聞き取るための語学力が足りないために困難を極めた(例外取り扱いのため)。郵便にも問い合わせたが、いくつかの郵便物は未達のままとなった。それ以外もいろいろあるが以下省略。簡単に言うと、最初の1週間に申し込んだほぼすべての手続きがやり直しになった。

想定される原因と解決

ドイツではハイフンでつながった姓も一般的なので、「OKAJIMA」さんと「OKAJIMA-YOKOTA」さんを別人だと思った可能性がある。結局、「OKAJIMA/YOKOTA」と表記しなおすように強く要望したところ、「これでは二人居住していることとなり非常に奇妙である」と渋られたが、上記事情を説明してなんとか了解を得た。また、「Dr.OKAJIMA」についてもトラブルとなりかねないため、Dr.も外してもらうことになった。上記措置をした後は未達となっていた郵便のうち半分は再送されて届いた(残りはどこ行った…)。

問題2:web登録でどのように入力したらよいかわからない

事案の概要

ドイツにおいて公的な身分証明は旅券(パスポート)だけである。そのため、本人確認が必要な場合は、すべて旅券を提示することになる。旅券に記載されている通りにホテル予約サイトや各種会員登録(その中には、ドイツ鉄道(DB)のBahnCardのように、本人確認が必要なタイプのものもある)などでパスポートの記載通りに”Akemi OKAJIMA(YOKOTA)”と入力しようとすると、いくつかのサイトでは「()」の文字が受け付けられないという理由で入力ができなかった。そのため、仕方なくOKAJIMA姓のみを入力した。 しかし、そうすると今度はTitel(学位)欄との衝突が生じる。ドイツでは博士号の有無と教授資格の有無は郵便受けに表示するくらい一般的に表示される項目であり、ほぼすべてのweb登録がその欄を有している(ある友人によれば、アップグレードが優先されやすいなどのメリットもあるようだ)。そのため、偽りなくDr.を選択したあと、上記のNachname欄にYOKOTAを入力することができないために、実際には存在しない「Dr. Frau Akemi OKAJIMA」という表記名で登録されることになる。これでは、(仮に)学位証明を求められた場合、それを証明する手段はない(東京大学(学位を出した大学)・千葉大学(現勤務先)発行の証明書や研究者としての公刊物やwebサイトはすべて横田名義)。

想定される原因と解決策

原因は、公的証明書はすべて戸籍名、学位・職務上はすべて旧姓であるということ。マインツ大学(受入研究機関)での混乱をさけるために、受け入れ教員には両姓併記(ただし、YOKOTA(OKAJIMA)の順)での招待状を出してもらうことで各種申請(特に重要な「研究者としての例外条項」を使ったマインツ大学と外国人局が今年から始めた滞在許可発給迅速制度)はトラブルなく進行した。しかし、「パスポートを旅券としてではなく本人確認書類として用いる」場面においては、解決策がほぼない。なお、結果として発給された滞在許可には、OKAJIMAとしか表記がない。

一般化できる内容かどうか考える

なるべく詳しく書こうとしたら長くなりました。さて、上記のようなトラブルは、どれくらい一般化できるのでしょうか。当初、旅券の例外としての「別名表記」の典型例である、仕事上の必要性というパターンでしたから、気を付けていればなんとかなるかな、と思っていました。しかし、想定以上にトラブルが多く、自分としては慎重に対応していたつもりでしたから、とてもショックが大きいです。

これは研究者特殊事情なのか?

「まあ研究者ならそういうことあるよね」という話なのかもしれませんが、博士号取得が日本とは違って一般市民にとても一定の尊敬をもって受け止められているこのドイツという国で、まさか「自分の名前を奪われている」苦しみに代わってしまうとは思いもしませんでした。とはいえ、滞在等には相手の招待が必要だということは研究者以外の滞在でもあるはずでして(とくにビザが必要な相手国の場合は招待なしに入国すらできないかも)、研究者特殊事情と断ずるにはまだ早い気がします。

本当に「デジタル化」対応できるの?

また、上記外務省の説明にもあるとおり、これは例外取り扱いです。そうすると、物理的に表示されている内容と、ICチップに内蔵されて機械的に読み取れる内容が異なるということになります。となると問題になるのが、デジタル化が進めば進むほど、この乖離が決定的になるはずなのです。

免許証の両姓併記で何が起こるのか

今回使ってみて思ったのは、「旅券としてではなく本人確認としての使い方」でのトラブルでした。その点、運転免許証は「運転免許の証明」よりは「身分証明」として用いられることが多いと皆がわかっている書面です。そうすると、「結局相手が受け入れてくれるかどうかわからない」という問題が、さらに拡大するのではないか、と懸念しています。 これは、あたかも、「同性パートナーの存在を相手が許容してくれるかわからない」問題と似ているように思います。そのために、公的パートナーシップ条例がいろいろできていますが、結局「相手が許容してくれるかわからない」問題は残っているんです。

法的に認められる、ということ

最初から、端的に認めてください。自分の名前を、法的に使わせてください。相手が許容してくれるかどうかに依存するなんてもうまっぴらです。本当にデジタル社会に移行する前に、「こちらが選んだものを、相手に受け入れてもらえる」保障が欲しいです。

まだ煮詰まっていないですね…

書き下ろしてみてわかりましたが、まだ煮詰まっていないと思います。しかし、今の段階で、記録しておくことにも価値があると思いますので、このように書いてみました。 なお、研究テーマにもかかわる内容ですので、この話題について「ぱうぜ」に用がある方も、「横田明美准教授」に用がある方もどちらも歓迎します。 上記内容についてはPodcastでも配信しています(第6回から第8回)ので、ハッシュタグ付きツイートを歓迎します。

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それではまた。